とりでの屍体公示所<モルグ>

とりでのなかにある屍体置き場

聖家族 1

 特殊情報と特殊絶叫を取り扱う職員の脳には、通常よりも多くの懸賞金がかけられるという。

 わたしは職業柄、脳に危険なデータを持ち込まざるを得なかった。長年の蓄積が祟ったのか、健康上の問題にとどまらず、不快なできごとは家族にも及んだ。この件について、わたしは非常に憤慨しており、現在、措置を検討している。

 そのために、次のような記録を提示することになった。  

 

  

 その冬から、たまに頭が痛くなった。寒い空間に出ると、頭が冷えて血管がふるえるのがわかる。同時に歯もすこし痛くなった。

 脳みそについて意見をいおうとおもったがとくにみあたらなかった。ある日、ふしぎな子供を目撃した。   

   

  

 わたしは先日、不快な体験をした。詳細は次のとおり。

 あちこちのポケットから、しまっていたものがボロボロと落ちた。メモ帳や、ライター、カギに混じって、数種類の昆虫も床に墜落した。

 表面のやわらかそうな、イモ虫とも、ミミズとも判別がつかないものは、自分の重みにたえられずに、紫色になってうごかなくなった。

 別のチーム、戦闘力のある、するどいアゴをもった昆虫たちは、おなかを中天にむけて着地し、すぐに宙返りして、ゆっくり前進をはじめた。

 逆立ち腕立て伏せがおわれば用件がすませるとおもい、職員たちがそわそわしはじめている。

 ところが、わら袋のような手をはたいて、制服を直し、席についたころにはもう、日がかたむいている。

 

  

 子供は、小さな男の子は、かれはまだ腕や足がほそくて、骨のありかがうっすらと透けているが、家の車に乗せられて牧場にやってきた。

 牧場は高層建築のなかにあった。外柵は電気をおびた鉄条網からなり、らせん状の、とげのついた鉄線が地面と平行にくくりつけられている。

 敷地はたてものと、たてもののあいだのすき間をぬって、いびつなかたちをしている。

 馬に乗る際、男の子は両腕をつかまれた。馬と対面したとき、青いヘルメットをかぶるように強いられた。

 このメットは自分のではない、と何度も主張したが無視された。さあ、これをかぶるんだ、と、プラスチックの半球を頭部に押しつけられた。そのとき、無数の汗に混じって、血の臭いをかぎとる、という夢を見た。

    

  

 わたしの所属する部署では、月曜日にブリーフィングが実施される。複数部門が、前の週にやったことと、その週の予定を報告することになっていた。

 朝、嫌な夢から覚めると全身が固くなっていた。わたしは小さな男の子にむかって手をのばしたがもういないことに気がついた。ベッドから抜け出したが、日が出ていないので外は暗かった。

 高層建築の外骨格の部分に、エレベーターが設置してあり、茎じみた飾りがあしらわれている。そのへりに、延々と続くむきだしの階段がある。

 階段の柵も、鉄板もぜんぶ錆びて、赤く変色している。

 きまった間隔で小さなランプが発光しているので、雨がふっているのがわかった。

 鉄骨と外壁のあいだを風がすりぬけて音が鳴った。

 わたしたちはエレベーターを使うことができなかった。たてもの自体は住民のためのもので、職員はてっぺんに増設されたコンクリートの局舎を借りている。小さな空間で分けられ、水道と電気がたまにうごかなくなった。

 局舎に住む職員は、毎日数百メートルの階段を昇降するので、足腰が強化された。

 足を踏みはずすと地上まで障壁がなく、人がよく墜落した。

 ブリーフィングの開始時間が近くなり、わたしは移動した。

 会議室には職員や部長たちが集合している。齢をとって、皮フがしわだらけになった人たち、脂肪をたくわえた人たちが、いすに座って目をとじている。

 小さな老人がお付きのものをしたがえて、会議の間に入ってきた。

 職員たちは、まとめ役の部長の号令にあわせて、いっせいに姿勢を正した。

 隊司令は小柄で、やせほそっている、また、お付きのものは3人とも巨人なので、よけいに小ささが目立った。

 表情がつねに笑っていて、眼が細い……なので、どこも見ていないような印象をうける。皮フは青白いが、首まわりは頭部よりも太い。血管が脈打っており、手は、人の首程度ならスポン、スポンとひっこぬいてしまう気がした。

  

  

 わたしは自分の担当分野について説明をおこなった。詳細は次のとおり。

 「墓石が積み上げられては崩れていって、わたしの前を流れていった。墓石がぶつかりあい、そびえ立つ波のかたちに変化するが、音は何も聴こえない。風の音、波の音もふくめて、いっさいの空気のうごきがなく、無音状態がつづく。

 この海を生身で泳ごうとすると、石にすりつぶされてすぐに消えてしまう。石の舟を操る人びとは、この国では尊敬を受けている。

 人は死ぬと焼却されて、墓石の下に埋められる。墓石はすぐ地中に沈んで、海に還る。墓石をどこから手に入れるかといえば、海から釣り上げる。これも危険な仕事で、毎日、海に引き込まれてだれかしら死んでいる。

 わたしたちの命は決まっていて、30歳になった日に死ぬ」

 計画部署にもどった。そこで、班長がわたしをほめた。

 今年に入ってから、収集対象のうごきが活発になり、こちらと相手との関係が変化しつつある、これによって、職員たちの労働時間が増えた。

  

  

 まとめ係から連絡があり、立ち入り許可証を新しくする必要があると知らされた。

 わたしは作業中の文書を保存し、計画部署を出た。廊下はすべて青と黄色で塗り分けられており、毎日通るたびに、まだらの蛇のなかをくぐっているような錯覚におちいる。

 規則正しい間隔で灯りが埋めこまれているので、職員はみな、ぼんやりした、弱弱しい光を手がかりに司令部内を移動しなければならなかった。

 灯りが天井に埋めこまれているときは、その次には、むかって右側の壁に埋めこまれている。その位置から歩くと、次は床に埋めこまれた正方形の灯りにつきあたる。すべての照明は、中央制御をうけて点滅した。

 まばたきをするあいだに、かならず司令部は暗闇にはまりこむ、同じ階層あたり、2つのパネルしか同時に点灯しないように設定されているからだ。

 道に迷わないように、光のありかをよく覚えておかないといけない、とまず教育された。

 どこにもたどりつかない回廊に入りこむと、いつのまにか地中深くにもぐってしまい、地層の裂け目から足をふみはずして墜落した。

  

[つづく]